株式会社タバッキ / tabacchi

Tabacchi Journal

ヒトが循環し、全員活躍の未来をつくる「ta.bacco プロジェクト」――株式会社タバッキ代表 堤亮輔

2013年 2月に「リ・カーリカ」をオープンしてから10年-
今年10周年を迎えました。そんな記念すべき年に誕生した「ta.bacco 八重洲」。

実は正直なところ、商業施設への出店オファーはこれまでずっとお断りしてきました。自分たちの目指すものとは、あまりにも違うと感じていたので。ただ、六本木や日比谷に展開する「東京ミッドタウン」に関しては、落ち着いた雰囲気と洗練されたイメージ、セレクトしているものを含め従来の商業施設とは異なる路線で、良い印象をもっていました。

そんな中、新拠点として「東京ミッドタウン八重洲」の開業が決まり、期間限定店舗として出店のオファーをいただいて。

東京駅は、僕らが大切にしてきた地方の生産者さんの拠点へと繋がる場所であり、互いを結ぶ通過点でもある。未来へとつながるヒントにもなりそうな立地と、独自の色を持つ東京ミッドタウン。この掛け算は、日本を代表する新たなランドマークを生み出すのではないだろうか……そんな予感とワクワクした気持ちが、出店への決め手となりました。

「ta.bacco 八重洲」が店を構えるのは、2階の一角に広がる立ち飲みエリア「ヤエスパブリック」。ここでは「ta.bacco」はもちろん、ほかの飲食店のメニューもモバイルオーダーすることができます。お客さん目線でいえば、これも今までの商業施設と違って面白いなという期待感もありました。

また、今回のオファーが“2年半限定のポップアップショップ”であったことも大きかったですね。商業施設での営業は長く続ければいいというものではないと思っていますし、商業施設自体も、時代と共に変化し続けるという考えです。

ta.bacco 八重洲を支える「ta.bacco プロジェクト」

昨年オープンした「ta.bacco 恵比寿」を含め、現在2店舗を展開する「ta.bacco」は、「リ・カーリカ」の名前を冠してきた既存の4店舗とはコンセプトが違います。

若い人がいきいき働ける場所を作りたかった。

というのも、飲食業界で自分の店を10年やってくるなかで見えてきた課題である、慢性的な人材不足になにか打つ手はないかと考え続けてきて。飲食業は楽しくとても夢のある仕事だと思っていますが、その反面、“時間”にまつわる悩みが付き物なのも事実。

1皿の料理がお客様のテーブルに届くまでの間には、食材選定やメニュー開発・仕込み、心地よいサービスでお客様を迎える準備にも、たくさんの時間を費やします。
料理人として、サービス人として、様々なステップがあり、結果として成功体験を得られるよりも前、飲食業の楽しさを知る前に働き始めて間もないスタッフが挫折してしまうのはとても残念なこと。

もちろん過酷な環境もプロになる上では必要で、実際、僕らの世代はそうやって成長してきたことで今がある。ただ、働き方の多様性が求められる今、それだけではやっていけない。飲食業の労働形態と、これからの若い世代の働き方に対する価値観のミスマッチが起こっていることで、レストランの現場が慢性的な人不足に陥るのを本気で何とかしたいと考えてきました。

そんな現状に着目して、経験の浅いスタッフが主軸となっていきいきと働ける場所を作る、長く働いてもらえる仕組みを持った新期事業として立ち上げたのが「ta.bacco プロジェクト」。

現在「ta.bacco」は若手スタッフが中心となって運営しています。たとえば八重洲で働く香椎はまだ入社5ヶ月ほどで、広告業界で会社員を4〜5年経験したのち、未経験で飲食業界に飛び込んできました。入社当初は「リ・カーリカ」に在籍していましたが、未経験者なこともあって、お店でのスタートは5〜6番手。先輩スタッフの指示で動き、営業中は皿洗いや食材準備などサポート役として走り回っていた。

一号店の空気や緊張感を肌で感じたところで、次のステップとして用意したのが「ta.bacco 八重洲」。八重洲での彼女はカウンター越しの接客はもちろん、アルバイトスタッフに声をかけ指示を出し、先を見越して次の準備に動く……お店の中心として、オープン初月から“火口(ストーブ)”に立っています。

このように「ta.bacco」で働く若手は、成長スピードがグンと早まります。本来であれば先輩の背中を追いかけながら長い時間をかけて身につける“段取り”の部分を、実践をもって習得できる。これは飲食をやるうえで最も大事なことのひとつで、ここが出来るようになれば「料理を知る」という次の段階に進むのも、一気にスムーズになります。

レストランクオリティを諦めない、自社開発とシェフ陣の台頭

「ta.bacco」で若手が早くから中心となり活躍できるのは、「リ・カーリカ ラボ」の存在が大きく関係しています。コロナ禍を経験した3年余りの間、僕らは「行動と思考を止めない」という強い信念をもって動き続けてきました。

そんな中で一番大きな出来事が、自社のラボを持ったこと。ピチやスープシリーズなどの自社製品の開発・製造ができるようになり、生産能力が上がって、ここで作った料理を「ta.bacco」の実店舗で提供する流れに繋がりました。  

「ta.bacco 八重洲」では、ラボで仕込み・調理したものを若手が受け取り、オーダーを受けてから仕上げて提供します。もちろん品数も多く実店舗での工程もあるので、ひとつひとつ緊張感を持って向き合うことは変わりませんが、シェフや料理人の熟練の技術とはまた違った切り口で、段取りやスピードを鍛えることができます。

だから「ta.bacco」は若手にもってこいの環境。仕込みをラボのメンバーが担うことで労働時間の負荷をかけすぎず、早い段階から成功体験を重ねて成長できる。

その一方でお客様には、東京駅直結の商業施設というカジュアルな空間で、タバッキらしいイタリア郷土料理を楽しんでもらうことができる。目黒区・渋谷区に展開してきた10年間を経て、新たな出会いの多い東京の東側で、毎日たくさんの嬉しい声をもらっています。

そんな「ta.bacco プロジェクト」を実現できたのは、松本の存在が大きかったですね。彼は本来、シェフを務められるほどの料理人。そんな松本が「ta.bacco プロジェクト」のプロジェクトリーダー兼「ta.bacco 八重洲」の店長を担ってくれていることで、スムーズにスタートすることができました。

松本のみならず「ta.bacco」で提供する料理のレシピ開発には、「リ・カーリカ」の伊藤、「カンティーナ・カーリカ・リ」の加藤、「あつあつ リ・カーリカ」の服部というシェフたちのアイデアも多く盛り込まれています。

出会った頃には若手であった彼らが大きく成長して、シェフを勤める店舗の営業と同時進行でレシピ開発に参加してくれたことは、タバッキとして次なるチャレンジに踏み切れる重要なポイントです。

彼らにはこれからも、自由に成長していってほしいと願っています。

多様な働き方、やりがいのある仕事を一人ひとりに

「ta.bacco プロジェクト」として、もうひとつ大事にしていること。

それは、人材の“循環”です。

例えば先ほど挙げた八重洲の香椎も、あまり長く置くことはイメージしていません。ずっと同じ場所に居続けることで磨かれる部分もあるものの、現場経験を積んで見えてきた“本当にやりたいこと”が長く一店舗にいることで実現しにくい、ということが無いように常に柔軟でいたいと考えています。

「ta.bacco」で身につけた“段取り”のスキルを武器に、「リ・カーリカ」「カーリカ・リ」「あつあつ リ・カーリカ」で“テクニック、技術”を磨く。
一人ひとりと向き合いながら全員で前に進む中で、新店舗ができるのも面白いなと思っています。

実は2年前、僕は「全国に30店舗出す」と話したことがあったんです。僕なりに「大きなことをやるぞ!」という決意表明だったのですが、八重洲がオープンして、若手が活躍する姿を目の当たりにした今では、少し考えが変わってきています。

本当にやりたいのは拠点数をただ増やすということではなくて、「ta.baccoプロジェクト」を通じて集まった新たな仲間の、働く場所や働き方の幅を広く持ち続けること。

例えば、新しいお店は畑の隣にあってもいいんですよ。もしかしたら地方の生産者さんのところかもしれないし、東京で話題のあの街かもしれないし、「タバッキ」以外の会社が運営しているかもしれない。そうやっていろんな経験ができるとしたら、最高じゃないですか? 

だから僕は「ta.bacco プロジェクト」が、各世代、立場、ワークライフバランスを整える役割を持つ架け橋になればと考えています。まだまだこれから。楽しみですね。

インタビュー/金沢大基(iD) 文/鈴木杏(iD) 写真/鈴木愛子

ta.baccoの求人情報 : https://job.inshokuten.com/kanto/work/detail/60249