株式会社タバッキ / tabacchi

Tabacchi Journal

Wシェフで挑むシェフズテーブル! 食材を求めて広島県安芸高田市へ 後編

「リ・カーリカ」と「あつあつ リ・カーリカ」というコンセプトがまるで違う店舗で、それぞれシェフを務める伊藤和道服部新

今回、ふたりがタッグを組み挑むことになったのが広島県安芸高田市にある、鹿肉ブランド「Premium DEER 安芸高田鹿(以下、安芸高田鹿)」のコミュニケーション拠点「DEER LABO 安芸高田」で、月に一度開催されているシェフズテーブル。

安芸高田鹿の生産者やコースを組み立てる地元の食材を求めて安芸高田を巡った旅を紹介した前編に続き、後編では10月に開催されたシェフズテーブルについて紹介。さらにシェフズテーブルを終えた今の心境を二人に聞いた。

――事前の視察、東京での準備を経て、10月21日~22日の2日間で計3回シェフズテーブルを行いました。今の心境はいかがですか?

服部:いい準備ができたので、僕らがやりたいことや伝えたいことがうまく表現できました。お客さんも食に対する意識が高い方がほとんどで、僕らの料理に興味を持ってくれましたし、テーブルがひとつにまとまっているのも嬉しかった。大きな達成感を感じています。

伊藤:めちゃくちゃ楽しかったです。料理人にとって贅沢な時間でした。地方の食材だけを使って地方で料理をするのはチャレンジしたいことの一つでしたが、なかなか機会がなかったので…楽しくて充実していました。

――集まったお客さんは、料理やお二人への興味関心度が高かったですね。

伊藤:今回は攻めた料理をいくつかお出ししたのですが、お客さんの理解が早く、攻めて正解だったなと感じました。ワインを持っていったので、それも「ハマったな~」という感覚。僕らが普段使っている生産者のワインを、料理と共に知る機会にしてもらえたらという思いもあったので、料理とペアリングのような形で提供できてよかったです。

服部:特に2日目のディナーはワインもしっかり飲んでペアリング、というスタイルのお客さんが集中していましたね。東京から来た方が、お客さんとして来ていた広島の農家さんに直接質問している場面もあって、そういうのもおもしろかったです。僕らから熱をもって伝えるのとは決定的に違う瞬間があって。

――2日目のランチには安芸高田鹿のハンターである古門さんと保村さんも来店されました。

服部:4年間・安芸高田鹿を料理しているのですが、その集大成として”僕らの思う安芸高田”を表現した料理を出すことができました。一番嬉しかったのは、保村さんが「自分らがとった鹿を、初めて自分が納得する形で提供してくれた」と言ってくれたことです。繋がりがより深くなったと感じましたね。

伊藤:お二人とはシェフズテーブルの食材探しに来たときにじっくり話したこともあったので、料理を絶対に外すわけにはいかないって思ってました。鹿肉をたくさん食べているお二人が食べたことのないニュアンスで出そうって。安芸高田鹿は僕らのお店がよくなるきっかけになった食材の一つでもあるので、感謝の気持ちや安芸高田鹿への思いを料理で伝えたいと考えていました。実際に全力で料理を作って伝えられたと思っています。

服部:お二人がいらした2日目のランチは、僕らが安芸高田鹿をどの様に理解して調理しているかを一番表現できた会でした。地元の鹿のイメージ…例えば”害獣”とか”固くて臭い”とか、そういうイメージの食材もこんなに美味しくできるんだよっていうのを伝えたいと思っているのですが、その第一歩としてハンターさんにこういう食べ方があるよって伝えられたのがよかったです。僕らとハンターさんたちとのやりとりを見てた他のお客さんからも「ハンターさんとの絆を感じる最高の場だった」と言ってもらえました。

――他にも、シェフズテーブルには生産者さんや地元の方もたくさん来ていただきました。生産者の方が目の前にいる会はいかがでしたか?

服部:お客さんの半分以上が生産者さんだった会もありましたね。食材に関しては、普段イタリア料理では使わないすっぽんやネギ、柚子や味噌。難しいものありました。でも事前に視察に訪れた生産者さんの食材を使うことに意味があると思い、今回料理に取り入れられてよかったです。どの食材もこれからさらに深掘りできたらと思っています。

伊藤:味噌に関しては中途半端に使うと創作料理になりかねないので、慎重でしたね。でも醸造されているご本人が来店されると聞いて、使わないという選択肢はなくなりました。甘さのある味噌だったので、バターに練り込んでブルスケッタにして、味噌料理ではなく、スッとイタリア料理に落とし込めました。

――シェフズテーブルを通して出会った生産者さんの食材を使った料理が、東京のお店でもメニューとして加わると聞きました。

伊藤:“すっぽんと鹿ハツのテリーヌ”ですね。本来は豚で作る煮凝りをすっぽんで作って、鹿のハツやチンバウン(ローゼルの葉)を入れたりと、ひとつのお皿で4つぐらいの安芸高田食材がコラボしていて、関わってくださる生産者さんの数が一番多いお皿。この感じがおもしろいと思って、リ・カーリカの【12月・1月期】のコースメニューにも組み込みました。個人的にも、すっぽんはずっと扱ってみたかった食材の一つだったのですが、安芸高田で八千代すっぽんと運命的な出会いがあって。念願が叶いました。

――鹿肉のグリーヴェを庭で炭火で焼いて、お客さんには縁側から見てもらったりと、普段店舗ではやらない演出もありました。

服部:店舗でも今回のシェフズテーブルでも、パフォーマンスについては常に考えています。東京のお店ではDEER LABOほど派手なことはできないですが、あつあつ リ・カーリカに関してはカウンターの目の前にお客さんが座るので、所作がきれいとか調理台がちょっと汚れただけでもすぐに拭くとか、それも一つのパフォーマンスだと思っていて。パスタを盛る時に「いい香り~」って声が上がったら、香りを届けられるように考えるとか。パフォーマンスを通して、自然と初めて会ったお客さん同士で会話が生まれるのも狙いの一つです。今回は炭火を使ったので、途中で何度かキッチンを離れて庭に炭の火加減を確認しに行ったんですけど、それも期待感に繋がったかなと思います。「あ、これだったのか~」って。お客さん同士の一体感も生まれたと感じています。

伊藤:DEER LABOの空間やお客さんの人数、僕ら二人でやるということをトータルで考えて演出を考えました。今までのシェフズテーブルを超えて行こうって。外で肉を焼くパフォーマンスなんかは場所があってこそなので、やろうってなりましたね。

演出の根本はお客さんに喜んでもらうことや、目線を1箇所に集めて体験を共有してもらうこと。テーブルから少し離れて、今から食べる料理の調理のプロセスを見るのは、期待感や高揚感を高められます。他にも、蒸籠をお客さんの目の前で開けて、見た目と香りを同時に楽しんでもらいました。蒸篭の料理にはDEER LABOの裏庭でとれたイチジクの葉も使っていたので、普段料理をしている料理人だけが体験している、蓋を開けた瞬間の”一番いい香り”を届けることが出来てよかったです。蓋を開けて香りを届けるアプローチはリ・カーリカでもできるかなと思ったので、今後考えていきたいですね。

――今回二人でタッグを組んでみて、あらためてお互いどう感じましたか?

服部:人としての新しい発見はなかったですが(笑)、社内でも料理人としても正反対な二人だから、お互いの得意不得意を把握してうまく目標設定できたと思います。担当もすぐに決まったので、店舗に立ちながらの準備もスムーズでした。

伊藤:ほぼ同期で同い歳なんですが、全然違うな~って(笑)。二人のシェフでやるので、違うタイプの二人でよかったと思いました。今はそれぞれ任されている店舗が違うので二人で仕事するのがすごい久しぶりで新鮮でした。言ってみれば東京でも同じようにできるのかな~って、可能性も感じました。例えば今回のシェフズテーブルで作った料理を東京で出すとか。全く同じコースだとしても東京でも価値はあるでしょうし。

――最後に、シェフズテーブルを経験して、料理人として何か変わったことはありますか?

伊藤:シェフズテーブルを経験して、“料理人としての価値”を感じられました。普段は目の前の営業に集中することや新たな料理を生み出すことに注力していて、広い視野で捉える機会を作れていなかったのですが、遠い土地でも料理はできるんだなって。今後、安芸高田をテーマにしたシェフズテーブルの2回目もやってみたいですし、広島の海側の食材も料理してみたい。次回はもっとレベルを上げられると思いますし、実際にやってみたことでより具体的にイメージできるようになりました。学大での安芸高田イベントなんかも面白いですね。

服部:料理人としてあらためて気づかされたのは、生産者さんとの繋がりを大事にしていきたいということ。今回は、シェフズテーブルのために安芸高田の食材を紹介してもらってコースを組み立てたのですが、今後はいろんな地域の生産者さんを自ら発掘するところからやっていけたら僕らも成長できると思いました。地方に行くと食材の探索もできますし、生産者さんとの出会いから農業のやり方、例えば自然農法や水耕栽培とか、僕らの知らない食物の世界に触れる体験が叶う。自分たちで見つけていくことができたら、料理人としても会社としても次の段階が見えてきそうですね。

DEER LABO安芸高田 シェフズテーブル

安芸高田鹿をはじめとする安芸高田市の食材(ジビエ、米、川根柚子、青ネギ、川魚、スッポン、山菜、きのこなどの旬食材や、お酒、味噌、醤油などの調味料)を生産現場でシェフが視察。食材の魅力を理解した上で料理を考案します。「シェフズテーブル」当日は、県内外から訪れた約10名のお客様に、安芸高田市ならではの食体験を提供します。

第三回目は、10月21日(金)~10月22日(土)に開催。「リ・カーリカ」伊藤と「あつあつ リ・カーリカ」服部がWシェフで担当しました。