株式会社タバッキ / tabacchi

Tabacchi Journal

食材と人材のサステナブルを考える。新しい挑戦の場「リ・カーリカ・ラボ」 ――株式会社タバッキ代表 堤亮輔

2013年に1店舗目の「リ・カーリカ」を開店して以来、2015年に「カンティーナ・カーリカ・リ」、2017年に「あつあつ リ・カーリカ」、そして2020年に「リ・カーリカ ランド」と、タバッキは店舗の展開とともに成長をしてきました。

4店舗目となる「リ・カーリカ ランド」がオープンしたのは、2020年11月のコロナ禍。度重なる緊急事態宣言の中でそれぞれの店舗をどのように営業していくか、スタッフとともに考え続ける毎日でした。飲食店としての営業ができず、食材の流通も止まってしまう問題をどう解決すればいいのか。タバッキで長く働いている社員たちを守るため、どう未来を切り開いていこうか……。非常事態だからこそ、なにかやらなければならない。このとき、大きなピンチにも関わらずなぜかワクワクしている自分がいました。

幸いなことに「リ・カーリカ ランド」は飲食店としての機能だけでなく、ワインや食品を買えるショップと、社員のオフィスを併設させたスペースとしてオープンさせた店舗でした。緊急事態宣言下でもここでテイクアウト用のお惣菜などを販売できるということで、惣菜免許や菓子パン製造免許をとり、販売を始めてみました。初めはほんの趣味のような気持ちで、自分たちが少しでも楽しめることをやろうとスタートしたのですが、思った以上にお客さまが喜んでくれたことで、大きな手応えを感じることができました。

その後ECサイトを通してOEMの食品製造にも挑戦しようとしたのですが、OEMでは自分たちらしさをうまく表現することができませんでした。やっぱりぼくらがやりたいことは、自分たちの商品を世の中に伝えることなんだと気づき、だったら自分たちでなんでもやっちゃおう! 工場を作っちゃおう! ……と、自分たちの工場を作る計画が持ち上がりました。ぼく自身がいろんなことにチャレンジしたいという思いもありましたし、会社の将来を考えると、常に頭をやわらかく、多岐にわたっていろんなことをやっていかなければならない。このときは、そう強く感じていました。

とはいえ飲食店ではなく工場として使える物件が少なく、場所探しには苦労しました。また各店舗のシェフが集まってみんなで開発ができるような立地も重要でした。やっとスペースの7割をキッチンとして使える17坪の物件が西小山に見つかり、2021年12月に「リ・カーリカ ラボ」が生まれました。

ラボが大切にする3つのこと。

「リ・カーリカ ラボ」で、ぼくらが大切にしていることが3つあります。1つは自分自身や仲間たちが楽しく、つねにワクワクしながら料理や商品開発をしていくこと。2つ目は、いま起きている現象に目を向けること。これは言い換えれば、生産者さんの声を聞きながら、ぼくらが役に立てることを探していくということです。たとえば少し傷がついてしまって市場に出せない果物があるなら、それを引き取ってちゃんと農家さんにお金が届くような商品を作ったり売ったりすることも、工場であればできるんです。こうした食材のサステナブルを考えていくことも、ラボのテーマです。

そして3つ目が、人材のサステナブルです。ラボという新しい働き先や選択肢が増えることで、より多様な働き方ができるようになります。そもそも飲食業界では、若いうちは安いお給料で働いて、やがては独立していく……というケースが多いのですが、裏を返せばこれはお店側が独立支援をすることで、常に人材費を抑えられるということでもあります。でも、そこは変えていくべきだと思っています。人は成長もするし、それによって会社も成長していくものだから、スキルをアップしながら長く働いてくれる社員こそが大切だと、ぼくは考えています。

タバッキの社員は現在30人ほどですが、長く働いている人が多いです。年を重ねれば子どもが生まれたりしてライフワークバランスは変わっていくものですし、ひとつの場所で長く働くことは決して簡単なことではないので、とてもありがたく思っています。そうした中で、会社として店舗だけでなくラボやオフィスという場所を持っておくことで、さまざまな人のライフステージとマッチングしやすいんじゃないかなと。たとえばラボで午前中だけ勤務するという人や、ラボで責任者として働く仕事が最も適任だという人もいるかもしれません。飲食店だけではない展開ができることは、会社としてもさらに成長できる可能性になるのです。

身体になじんでいくような、やさしい食品を。

「リ・カーリカ ラボ」では設備にもかなり気合が入っています。一番大きな機械は「製麺器さぬき一番」。これは「リ・カーリカ」の代表的パスタ「ピチ」の麺を作るための機械です。もともとはさぬきうどん用のものなのですが、太めのピチはうどんに近いですし、いろんな機械を探して試した結果これがベストでした。ほかにもタリアテッレなど幅広いパスタ作りに対応できます。

自動で火入れや急速冷凍ができる、パスタソースやスープなどを作るための「ホットミックス」というプログラミング式の回転釜も2台設置しました。また大量のピチをゆでるための「ゆで麺器」、急速冷凍機をする「ブラストチラー」、瓶詰め商品の気圧を抜く「キャッパー」、真空密閉する「真空機」、パッケージなど袋を密閉する「シーラー」なども揃えています。

こうした機械を使ってぼくらがこれから作っていきたいのが、タバッキらしい食品です。身の回りにさまざまな添加物があふれている中で、できる限り身体にいいものを前提に、自分たちの身体になじんでいくような物作りを心がけています。ナチュラルワインと同様で、それが「特別」なのではなく「当たり前」になる未来を想像しながら、販売する側から少しずつでも状況を変えていけたらいいなと思っています。

第一弾として、電子レンジだけで仕上げられる冷凍ピチ3種類をリニューアルしました。鍋でお湯を沸かしたりフライパンでソースを温めたりする必要がなく、プロの手仕事を電子レンジの「チン」だけで再現できます。また、スパイスミックス、七味など調味料系も作っています。フレーバーのついたバター、たとえばカラスミのバターや発酵ペペロンチーノバターなどはご自宅の料理をアレンジするのにもおすすめです。

購入はこちら
https://ricarica.base.shop/

最近は1店舗目の「リ・カーリカ」でも発酵食の考え方をアレンジした料理を出しているのですが、発酵食って人の健康や食材を長持ちさせる方法のひとつなんですよね。この考え方をプロダクトに落とし込むことで、今までになかった商品も生まれていくはず。まさにいま発酵食を使ったスープなどをラボで研究開発中です。工場で製品化するにはある程度の時間がかかるのですが、ぜひ楽しみにしていてください。

ラボで作った商品はタバッキ以外のお店でも販売展開していく予定です。ただし、売れるならどこにでも置いてもらおうとは考えていません。まずはナチュラルワインを置いているような、ぼくらの考え方とマッチし、安心してぼくらの料理を預けられるお店からスタートしていきます。

タバッキに「リ・カーリカ ラボ」が加わり、今後はますます生産者さんと自分たちの想いを乗せた商品を作り、食卓へ届けていきたい。そしてその先の挑戦につなげていきたいと考えています。

企画/金沢大基(iD)文/古俣千尋 写真/倉橋マキ