株式会社タバッキ / tabacchi

Tabacchi Journal

本気で食材と向き合うきっかけになった「王様しいたけ」

「僕がやりたかった“日本のイタリア料理”をはじめるきっかけを作ってくれた食材なんです。」

タバッキのオーナーで総料理長の堤が熱視線を注ぐのは、北海道七飯町・福田農園が栽培する「王様しいたけ」。

天然の森を手本とし、生態に合った環境で栽培されたしいたけは、肉厚でいて良質、旨みが強く風味豊かな逸品で、他と一線を画す。今回は、福田さんが栽培する王様しいたけとタバッキとの関係性について話を聞いた。

――王様しいたけとの出会いについて教えてください。

堤:最初の出会いは5年前。食材と料理人をつなげるバイヤーさんを介してご紹介頂きました。

――食べてみていかがでしたか?

堤:衝撃的に美味しかった。

しいたけ独特の香りは感じるんだけど、とても繊細で「綺麗な味」。これならしいたけが嫌いな人でも食べられるなって。他の食材と合わせても主張しすぎないと思ったので、すぐに使わせてくださいと伝えました。王様しいたけは通常のしいたけの2~3倍の大きさなのですが、肉質がきめ細かく詰まっていて、なんと言っても軸が美味しい。軸の部分が他のしいたけと違って傘と一体化していて…ポルチーニに近い感覚がありました。

――ポルチーニと言えばイタリア料理の代表的な食材のひとつですね。

堤:僕らもイタリア産のポルチーニをよく使っていました。でも王様しいたけと出会った時期にちょうど、輸入食材に頼ることへの疑問を感じはじめていたんです。

僕が作るイタリア料理って何だろう?ってずっと考えていて、日本とイタリアだと水も風土も環境も違うし、食べる人の舌も違うから日本の食材でやった方がいいんじゃないかって。そんな時に王様しいたけと出会って、ポルチーニではなく王様しいたけに変えようという流れに自然となっていきましたね。

――王様しいたけの生産者・福田農園を初めて訪れたのはいつですか?

堤:5年前に北海道七飯町の農園にお伺いしました。生産者の福田将仁さんは笑顔が素敵で、気さくなかっこいいお兄ちゃんって感じで。お会いする前は、もっと気難しくて堅い人なのかなって勝手に想像していたのでいい意味でギャップがありました(笑)。

左: 福田農園の福田将仁さん

――農園を見学してみていかがでしたか?

堤:福田農園は湿度や温度をシステマチックに管理して“自然の森に近い環境”を再現した専用ハウスでしいたけを栽培しています。そもそもしいたけは舞茸などと違って天然モノがなく、商業的に栽培している農家さんが多いのですが、ここまで自然の森を再現した環境で栽培していることに驚愕しました。ハウスの中は霧が立ちこめていて本当に森みたい。栽培日数も、通常は3~4ヶ月で出荷する農家さんが多いのですが、福田さんは1年弱育ててから出荷しています。しいたけに全ての季節を経験させるのが大切なんだそうです。自然に敬意を払って栽培されていると感じましたし、僕自身も王様しいたけの育つ環境を見て、考えさせられることがたくさんありました。

――今では店舗で食材として使うだけではなく、リ・カーリカ ランドで干ししいたけを販売したりと、いい関係が続いていると感じます。

堤:5年前のあつあつ リ・カーリカのオープンから王様しいたけを使った料理が定番メニューに入っています。レストラン卸しが多い王様しいたけなので、新型コロナ感染症の影響で在庫を多く抱えていることを知ったときは、僕らが開いていたマルシェで販売もしました。同じく北海道厚沢部町・ジェットファームのアスパラとコラトゥーラ(イタリアの魚醤)をセットにして、レシピもつけて。生産者さんを応援するという外からの視点だけじゃなくて、僕らは仲間なんで”一緒にやっていきたい”って思ったんです。僕ができることは、楽しみながらより多くの人に食材の魅力を伝えていくことだと思って。お客さんから「作りましたよ~」って声もあって嬉しかったですね。福田さんがクラウドファンディングをされていたときは、菌床オーナ制度にタバッキとして手を挙げました。そもそも僕らは王様しいたけをずっと使い続けていきたいので、ぜひ購入させてくださいって。

――福田農園とリ・カーリカで王様しいたけのコース料理を提供するイベントも行いましたね。

堤:王様しいたけをメインにしたコースなんて最高におもしろいと思いました。来てくれたお客さんたちも、長くリ・カーリカに通ってくれている常連さんばかりで盛り上がりましたね。福田さんと僕らだからこそ実現できたイベントでしたし、今まで築いてきた関係性の発表会みたいな雰囲気も感じましたね。

――強い絆を感じます。スタッフのみなさんには食材の魅力をどう伝えているのですか?

堤:王様しいたけをお店で出すときは、しっかりとストーリーを伝えることが重要だと思っていて、社内でも情報共有をしています。今年の夏には加藤松本と一緒に福田農園さんに2回目の訪問をしました。同じ生産者さんを何度も訪ねることは今までしてこなかったのですが、福田農園さんには3回目も4回目も訪れたいと思っています。

――今後、タバッキでの王様しいたけの展開について教えてください。

堤:リ・カーリカ ラボで王様しいたけの商品を作ってみたいと思っています。福田さんにも「たくさん収穫して在庫が出たときはラボに送ってください」とお伝えしていて、完成した商品を福田さんのところにもお送りして売っていただくのもいいなって。王様しいたけのラグーなど、具体的にイメージもできています。さらに関係性を深めていけるといいですね。

あと、王様しいたけってカツがうまいんですよ。そのカツでハンバーガーを作ったら絶対美味しい!どこかでやりたいですね~。

スライスしたフレッシュの王様しいたけ

届いたばかりで新鮮なうちに、生でスライスしてオリーブオイルと塩だけかけても美味しい。食感も良く、チーズのような味わいも感じる。

焼いた王様しいたけ

コリっとした食感はまるでアワビのよう。アワビの肝を使ったソースと合わせてストーリーのある一皿に仕上げるのもおもしろいと話す。