株式会社タバッキ / tabacchi

Tabacchi Journal

飲食店を思いきり楽しめる空間に。キーマン2人が語る「あつあつ」のこれから

タバッキが展開する4店舗の中で最も小さいわずか7坪の店「あつあつ リ・カーリカ」(以下、「あつあつ」)。オープンから3年を経てこの度、スタッフが一新。

今回は、「あつあつ」の立ち上げメンバーで、その後「カンティーナ カーリカ・リ」 (以下、「カーリカ・リ」)で3年間シェフを務めたのちに戻ってきた服部、「あつあつ」を経験後、2年間の間に各店舗を行き来して経験を積み戻ってきた森田に、これからの「あつあつ」の店づくりについて聞いた。

――服部さんは2017年の「あつあつ」オープン後に勤めたのち、「カーリカ・リ」で3年シェフを経験。今回、「あつあつ」のシェフとして戻ってきました。

服部:小さな店に戻るんだって。最初はそう思いました。客数が「カーリカ・リ」の方が多いので、その分自分の料理を食べてもらえる人も多かったのですが、今度はその人数が少なくなるなって。異動の理由は料理の評価だけじゃないでしょうし、12席だけの「あつあつ」でどんなことができるのか、「カーリカ・リ」でやってきた料理を持っていくのもいいんじゃないかとか、徐々に考え方が変わってきましたね。

服部

――「カーリカ・リ」 でシェフをしている期間、「あつあつ」をどのように見ていましたか?

服部:常連さんが変わってきたなと思っていました。立ち上げメンバーが異動してからはお客さんが徐々に若い年齢層になったという印象で。あとは、この小さな店で、料理をうまくやってるな〜、色々おもしろい事やってるな〜って(笑)。

――森田さんは「あつあつ」を経験した後、2年間「リ・カーリカ」を中心に経験を積んで戻ってきました。

森田

森田:まさか戻ってくるって思ってなかったですし、「あつあつ」に配置されるとは思ってませんでした。僕自身はスタッフが大勢いるところの方が合ってると思っていたし、今力をつけてきてる子に「あつあつ」をやってもらった方がいいのではと思ったりもしました。でも徐々に、いい機会かなと考えはじめたんです。自分自身もいろんな人と出会って勉強して経験を積んできたし、服部と働けるのも大きかったです。あとはお店が小さいのでお客様のことや料理も間近で見ることができるので、一番最短で目指しているところにいけるかなってポジティブな考えに変化していきました。

――お二人にとって「あつあつ」を離れていた期間で得たものは?

服部:「カーリカ・リ」 はお客さんの年齢層が高く、グルメな方やワイン好きな方も多い。そういうお客さんと接することで色々と学べました。料理への考え方にも影響がありました。何よりコミュニケーションを取るのが上手になったのも大きいですね。あとはシェフを任されたのは初めてだったので、意識も大きく変わって責任感を持つことができました。

森田:「リ・カーリカ」に限らず色々な店舗に行って働く機会をもらってたので、その経験を通してだいぶ大人になった気がします(笑)。僕は自分自身がそんなに目立たなくていいと思っているタイプで、服部の料理をリスペクトしていますし、服部がいない日でもシェフの思いを持ってお店を運営していきたいし、若い子にもそういう風にやってほしいと思っているんです。目の前のことだけじゃなくて。僕はどこにいてもサポートできればいいと思っていて、それを実行していく上で自分自身がちゃんとできないと若い子への説得力もないから、そういう意味ではこの2年間で色々と経験できたのは大きかったですね。

――お二人でこれからの店づくりについて話すことはありますか?

服部:異動する前から話しています。森田が「どういう感じの料理にするんですか?」って聞いてきてくれた時に、「この店の雰囲気の中でクラシックな料理を出したいんだよね」って伝えたり。逆に僕が「ワインやビールはどうしようか?ビールはそろそろ変えたいね」って。あとは、一番意気投合したのは、若い年齢層のお客さんが多い中で、そういう人たちに飲食店の楽しみ方やワインの楽しみ方を伝えていってリピートをしてもらって、そのうちにワインとか食事をもっと楽しめるようになって欲しいねって。

森田:営業が終わってからは毎日話しています。今日はこうだったね、とか。試行錯誤しながら変えていけるところは変えていきたいと思っています。

――客層が若くなったということですが、その辺りはどう考えていますか?

森田:若いお客さんでも年配の方でも、それぞれのお客さんへの対応の仕方、会話の仕方、店の雰囲気のバランスをとることをスタッフがきちんとできればどんなお客さんでも居心地がよくなると思うんです。逆に色々な年齢層のお客さん同士が仲良くなっちゃったり…そういうのが理想ですね。

服部:居心地がいいってお客さんにも思ってもらえて、色々なお客さんを呼べるように僕らも力をつけていきたいです。例えば早い時間は若い人で埋まっていても、ディープな時間は大人が遊べる場所になったら、それもいいなと思っています。

――料理に関してはどうですか?

服部:この小さいお店でオペレーションしやすい料理を出すというのは変わらないです。それを作り上げてくれた松本伊藤のメニューはもちろん残します。変わるものとしたら、今までは発酵を取り入れた料理がありましたが、調理のスパンが長いものはあまりやらない予定ですね。僕がこだわっているのは食材を活かした料理。だからひとつの料理にたくさんの食材を重ねないようにしてます。食材の入荷状況によってはメニューに載ってない料理も作ります。お客さんと話しながら、そのお客さんに今ベストな料理を出したり。ライブ感のあるやり方です。「カーリカ・リ」では難しかったのですが、ここならできますし、そういうやりとりの中で生まれたアイデアをもとにメニュー化することもできるかなと思ってます。

――ワインなどお酒についてはどうですか?

森田:ワインに関しては、服部と「カーリカ・リ」 で一緒にやっていた石黒を中心に僕が持っている意見も入れて選んでます。ほぼイタリア産ですが、フランスとかスロベニア、ギリシャ、アフリカとかそういうのもあっていいんじゃないかと思っています。意識しているのはストーリー。なんでこのワインなの?というストーリーもそうですし、生産者との交流もあるので、その想いを飲み手まで伝えていきたいです。

あとは、岩手の「とおの屋」のどぶろくも扱っています。「リ・カーリカ」と「カーリカ・リ」だと違和感がありますが、「あつあつ」はあってもいいなと思っています。料理にも使えるし、ワインはたくさん飲めないけれど違うお酒があったらいいなというお客さんもいるので。このどぶろくもやっぱりストーリーがあるから選んでいます。

服部:タバッキは生産者さんとの繋がりが強いですし現地にもよく行くので、情報はちゃんとお客さんに伝えたいと考えています。生産者さんの声を聞くことが多いと、よりこの食材に手を加えたくないって思っちゃう。「どういうふうに食べると美味しいですか?」って聞くと答えはめちゃくちゃシンプルなことが多いです。でもシンプルって一言で言うと簡単に思われがちですが、例えば、何度でどれくらいの火の入れ方?とかこだわることが必要だし、料理自体はシンプルだけどそこに行き着くまでが長い。まだまだ頑張らないと全ては伝えられないですが、生産者さんの情報を料理を通して伝えられるようにしていきたいです。

森田:僕には伝わってますよ(笑)。

――「あつあつ」のメンバーはお二人に加えて太陽さんもいますが、後輩とかスタッフにはどういうことを伝えていきたいですか?

服部:まだ一人前にもなってないからまずは一人前になるように育てる(笑)。一人前になってから、ここを目指そうよって一緒に目標を考える。

森田:できるだけ「今こういうふうな店作りをしたい」ってことは伝えつつ、若いスタッフの思いとかやりたいことを言いやすいようにしてあげたいと思ってます。

服部:僕と森田では若いスタッフの育て方が逆なんです(笑)。僕は背中を見てついてこいってタイプ。質問あるなら聞いてこいって。森田はもっとちゃんとサポートしてくれる。だから僕ら二人と一緒に働ける太陽は幸せだと思いますよ(笑)。

森田:モチベーションだったりを考えてフォローもしつつ、でも怒るところは怒ったり…。その辺のバランスが大切です。そうすることでほかの店舗に行っても活躍できると思います。

――半年後、1年後にお店がどうなっているといいと思いますか?

服部:僕も森田もこの2、3年で色々なことを経験してきてお互い成長してるので、何か大きな変化をここで起こすより、変わった僕ら二人が学んできたことを出して行こうって思っています。それが二人がここに戻ってきた理由かなと。個人的には、小さいけどデカくなった僕を見てって(笑)。「あつあつ」の立ち上げ当時は20代だったけど30代になりましたし、父親にもなりましたし。

森田:二人が戻ってきたから変えなきゃいけないとはそこまで思ってないです。変わった僕たちをお客さんが見てくれることでおのずと雰囲気が変わってくると思います。堤が「あつあつ」にかけた思いは最初から変わってないのでそこは守りながらですね。立ち上げ当時も服部が中心となってこの店を作ったので、その服部が戻ってきたわけですから堤の期待値も高いと思うんです。そんな中で、服部には自由にやってほしいと思っています。

服部:飲食店というものを思いきり楽しめる空間。飲食店の楽しみ方を知ることのできる店を作って、年齢層関係なく、来た人みんなが楽しめる店にしたいですね。

森田:「あつあつって楽しい!」それがベースでいいかなと思います。

服部:それで美味しい料理とお酒があってね。

森田:「すごい渋いの出てくるじゃん」とか、「あ、でも意外とポップなのもある」とか。「ワインも知らないのが出てくるな」とか。そういう体験をしてもらえるといいなと思います。

企画/金沢大基(iD)文/田中亜衣(iD) 写真/倉橋マキ