株式会社タバッキ / tabacchi

Tabacchi Journal

ショップ、オフィス、ラボを兼ねたお客さんとぼくらの“遊び場”「リ・カーリカ ランド」

2020年11月1日、「カンティーナ カーリカ・リ」「リ・カーリカ」「あつあつ リ・カーリカ」に続く4号店「リ・カーリカ ランド」がオープン。飲食店・物販スペース・オフィス・ラボという4つの役割を果たす、これまでとは違った新しい空間が誕生しました。スタッフが楽しく働ける環境を作り、新しいおいしさを届けることが、お客さんの幸せにつながっていく――そんな思いとともに開店した「リ・カーリカ ランド」。オーナーシェフの堤亮輔が考える構想とは?

働き方の追求が、お客さんの喜びにつながる

――4号店「リ・カーリカ・ランド」は、どんなお店になるのでしょう?

朝昼晩で内容の変わる飲食店、ワインや食材を買える物販スペース、ぼくら「タバッキ」のオフィス、そしてメニュー開発のためのラボ。これらを全部ひとまとめにした場所です。9:00~14:00は朝ご飯とランチのお店、14:00~18:00はお店を閉めてラボ時間、18:00~23:00までがご飯やお酒を楽しめるバーになります。ひとつのスペースを使っていろんな遊びをする、そんなイメージですね。

――今までの3店舗とは違った、新しいコンセプトですね。

はい。実は1店舗目の「リ・カーリカ」を開店するときから、3店舗まで経営することは視野に入れていたんです。お客さんに心から喜んでいただくためには、ぼくらスタッフ自身が余裕をもって有意義に仕事できる環境がなければなりません。その体制や労働環境作りのためには3店舗を持ち、安定した経営をしていくことが必要でした。

――では、4号店目を出そうと思った理由は?

これまでの3店舗をやりながら、ぼく自身がいろんな人との出会いを経て、世界観が広がってきたといいますか……料理人として、経営者として、もっともっと大きく新しいことにチャレンジしたいなと思ったんです。そのために、ぼくの仕事場として事務所を構えて新しいことを考えたり、スタッフで集まって料理の研究開発をできる場があったらいいなと。

――それで、オフィスとラボという機能も加えたのですね。

理由はもうひとつあります。それは「タバッキ」で働いてくれているスタッフのため。最初はたった3人からスタートしましたが、今では20人以上のスタッフがいて、その半数が5年以上の長きにわたって支えてくれています。飲食業界の一般的な働き方として、若いときには短いスパンで店を渡り歩き、使い捨てのように働かされ、最終的には独立をすれば成功……のように言われますが、それだけが必ずしも理想の形ではないと思うんです。

若いスタッフをどう守り、どう育てていくか。また産休・育休後に復帰するスタッフや、年を重ねて体力は少し落ちたけれども経験値の高いスタッフのスキルを、どう活かしていくか。そういうパズルを組み合わせるのがぼくの仕事です。それを解決できる場所として、4号店のアイディアを考えました。

食べるだけでなく、買って帰れる楽しみを

――飲食店としての「リ・カーリカ・ランド」では、どんなことが楽しめるのでしょう?

朝はお粥屋さんです。ぼく自身、疲れた朝に食べたくなるものって、さっぱりとしたお粥だなと思って。プレーンなお粥をベースに、いろんなトッピングを用意し、自分流のカスタムができるようなものを考えています。トッピングはお付き合いのある国内の生産者さんから届く、身体にいい食材でスタッフの戸梶が作ります。

お昼には、スタッフの伊藤が作るカレー屋さんになります。営業自粛期間中に「あつあつ リ・カーリカ」の昼の顔として開発したところ評判が良く、メニューから外れた今は惜しむ声もあがる程よろんでもらえました。今後はリ・カーリカ ランドの昼の定番として愛されるものにしていきたいと思います

そして夜はワインバー。この時間はスタッフのゆりが中心です。イタリアのナチュラルワインを中心に飲めるほか、前菜、温菜、おつまみなどシンプルだけど気の利いた小皿料理を出します。もちろんお粥やカレーも食べられますよ。

――朝昼晩でまったく違う雰囲気になりそうですね。

はい。接客・調理スタッフは女性チームに任せようと思っているので、いままでの3店舗と雰囲気も変わります。インテリアは白を基調にして、器は和ものや作家ものを揃え、今までとは違う新しい空間も楽しんでもらえたらいいなと。たまには他店のシェフを呼んで遊び場にしてもらったり、試飲会会場や、飲食に限らないポップアップストアなど、とにかく“開けた空間”にしたいと思っています。

――物販スペースでは、どんなものが買えますか?

まずはナチュラルワインです。たとえば、大切な日のワインを一本探したいときに、ワインショップへ行って何となく選ぶよりも、いつも通っているお店の信頼できるサービスマンと一緒に選べるほうが嬉しいんじゃないかなと。もちろん、飲みに来て出会ったワインをお土産に買って帰ることもできます。

塩、醤油、オリーブオイル、ビネガー、海苔、チーズ、野菜なども販売します。すべて、無添加で身体によく、生産者さんの顔が見える国内のものです。レシピもつけて、お店のメニューを自宅でも再現できるようにしたいなと思っています。スタッフの花ちゃんが作るパンも置きますし、洋菓子専門の新しいスタッフにも入ってもらったので、カントゥーチ(イタリアのクッキー)などの焼き菓子類も充実させていきます。

そして、現在開発中のパスタも売る予定です。これは冷凍麺と真空パックのソースがセットになっているので、自宅のキッチンでたった5分湯煎するだけで、レストランと同じような味を楽しめるんです。リ・カーリカの定番メニュー「ピチ アリオーネ」をはじめ、いろんな味を作っていきたいなと思っています。

――聞いているだけでわくわくしますね。物販スペースを設けた理由は何だったのでしょうか?

お店でだけでなく、家に帰ってからも楽しんでもらえるようなことをやりたかったんです。お客さんの生活の中で、少しでも豊かにできることがあればと。たとえば男性だったら、夜にお店で食べたメニューの食材をお土産に買って帰って、翌日奥さんに作ってあげたり。おいしいワインを見つけたよ、と一緒に飲むためのお土産に一本持ち帰ったり……そんなちょっとした幸せのストーリーを思い描きながら、寄り添っていきたいんです。遅くまで飲み過ぎちゃった人の言い訳にもなるかなと(笑)。

スタッフひとりひとりの能力を活かす場所

――「リ・カーリカ・ランド」のオフィスとラボの側面について教えてください。

オフィスは新しい企画を考えていくための、ぼくやスタッフの事務スペースですね。ラボは、ぼくと料理開発研究部メンバーと各店舗のシェフが週に2〜3日集まって、新しい料理を生み出していくための実験場です。

――ラボという発想は、どこから来たのでしょうか?

これまでのメニュー開発では、各店舗のシェフが考えたメニューを試食して、ぼくのアイディアをプラスして少しずつ完成に近づいていくというプロセスを踏んでいました。それではとても時間がかかるし、無駄な作業や経費も多く、もったいないなとモヤモヤしていて。

ならばいっそ同じ場を使ってみんなで一緒に考えてしまうほうが、いいものができるんじゃないかなと思ったんです。ぼくだけの意見を押し付けるのではなく、ラボでそれぞれのシェフがプレゼンしたり、アイディアを出し合ったりしながら、最終的には各自の「自分の料理」をしっかり作れるようになってもらいたいんです。

さらにはぼくが料理ができる場所、いつでもアイディアを形にできる場所がほしいという願いも同時に叶えられるなと。

――ひとりで黙々と考えるのとは違う、新たなものが生まれそうですね。

ラボに限らず「リ・カーリカ ランド」の一番の目的として、スタッフみんなに楽しいと思ってもらえることを大事にしています。これまではある程度トップダウンの部分があったけれど、これからは「自分たちの裁量でこんなふうに場所を使えるんだ」という楽しみをどんどん味わってほしいし、ぼくが持っていない才能を発揮してほしい。それを活かせる仕組みが「リ・カーリカ ランド」でもあります。

――「リ・カーリカ・ランド」の展望を教えてください。

これまでの3店舗は、ワイワイガヤガヤした賑やかなノリでしたが、「リ・カーリカ ランド」はまったく違うスタイルなので、お客さまの層も変わってくると思います。ぼく自身、朝からの営業は初めてのチャレンジなので、どんな感じになるのか本当に楽しみですね。

いま、外出自粛をはじめとした暗いニュースも多いですが、食べたり飲んだり、人と会って話したりすることって、やっぱり人間にとって絶対に必要なことなんですよね。だからぼくらにできることとして、いい料理といい空間で「幸せホルモン」を作り出し、みなさんの生活の「幸せ指数」を少しでも上げていけたらなと思っています。

企画/金沢大基(iD) 文/古俣千尋 写真/倉橋マキ