株式会社タバッキ / tabacchi

Tabacchi Journal

恵比寿のディープスポットを目指して。料理とお酒を楽しむ大人の店「ta.bacco」ーー株式会社タバッキ代表 堤亮輔

「わかりづらさ」を楽しめる大人たちの場所

2022年4月。ぼくらの新しいプロジェクトとして、ワインとお酒を楽しめる新店舗「ta.bacco(タバッコ)」を、恵比寿の一角にあるビルの2階にオープンしました。既存の4店とはまったく違うスタイルで、まだ「こんな店です」というものも固まっていません。むしろ成長過程にあり、これからお客さんやスタッフといっしょに作り上げていくような店だというのが大きなコンセプト。じわじわと1年ぐらいかけて、本当の意味で店が出来上がっていくんじゃないかなと考えています。

なぜ「ta.bacco」を立ち上げることになったのか。大きな理由は、この「場所」が見つかったからです。もともとは学芸大学のカレー屋「sync」さんがお店をやっていて、ここを空けることになったからと紹介してくれたんです。ぼくも、学芸大学以外の場所でやるならば、山手線の内側でちょっと隠れた場所でやりたいと以前から考えていて。さっそく見に行くと、駅から近く、2階の隠れた場所にある感じと、にじみ出る廃墟感がひと目で気に入りました。

現在はどこにいてもあらゆる情報が得られる社会で、なにもかもが「わかりやすく」なっていっているのを感じます。そんな時代だからこそ、逆をいきたいんです。ある一定の「わかりづらい」を楽しめるのが大人かなと……これはぼく自身が大人になりながら感じていたことでもありました。だから、ちょっとスラム街っぽいビルの入り口もそのままに、あえて看板も出さず、メニューも置かずにやりたい。そんなディープスポットにしたい、と。

この場所では絶対に、カウンターをメインにしたいと思いました。カウンター商売は、料理人がお客さんの前でライブ感のある料理を次々に出していくという、ぼくらがもともとやってきた得意分野でもあります。じゃあ、どんな形のカウンターにしたらおもしろいか……いろいろと考えた末、いけると思ったのが「逆P字型カウンター」でした。

半円の部分には7~8名が座れて、料理やお酒の提供のしやすさはもちろん、お客さん同士が向かい合うからおのずと会話が始まったりと、いい流れが作れるんです。逆に2、3人でゆっくり飲みたいなという方には直線のカウンターに座っていいただくこともできますし、ほかにも立ち飲みスペースとして半円カウンターを設置しました。さっそくお客様からは居心地がいいと言っていただけて、なかなかおもしろい空間が作れたなと思っています。

恵比寿のディープスポットを目指して

もうひとつの大きな特徴は、メニューをなくしたことです。どんな料理やワインが出てくるのかを楽しみに来ていただく、という店にしました。ぼく自身が飲食店に行って思うのは、食べたい料理はいろいろあれど、一番はそのお店のおすすめを食べたいということ。たとえばメニューを見て、知ったような名前があるとついそれを頼んでしまうことってありませんか? でも、いつもは頼まなかったり食べたことのないメニューでも、もしかすると好きなものがあるかもしれませんよね。

「ta.bacco」はそういう新しい経験や体験を楽しんでもらえるような店にしたかったんです。わかりにくいメニューを見て選ぶ煩わしさはありません。小料理屋で女将さんに「適当に出して~」って委ねる感覚ですね。もちろん「今日は胃が疲れているから優しいものを食べたい」みたいにリクエストくだされば、ぼくらも臨機応変に対応したいと考えています。

現在は基本的には小皿料理で構成し、それぞれに合わせたワインやお酒を出していますが、たとえば2軒目、3軒目に来ていただくことも大歓迎。ただしバーではないので、あくまで料理とワインをセットで楽しんでいただくことを考えています。料理単体だと強すぎる印象があっても、ワインと合わせることでそのイメージが変わっていきますよね。2軒目、3軒目にふらりと立ち寄る店として「ta.bacco」を選んでいただけるなら、小皿で2皿ぐらいは食べられるお腹の余地を残しておいていただけると嬉しいです。

最低限のルールとして設けているのは「料理とお酒を楽しむ大人の店」としてお越しいただきたいということです。ぼくらが大事にしているとっておきのワインを飲んでほしいので、お酒がまったく飲めない方や、いつも決まったワインしか飲まないと決めている方にはご遠慮をいただいています。また「大人の雰囲気=ただ黙って静かに飲む」ということでもないはずで、その場のノリ次第では大いに盛り上がったり、多少のハメを外してもOK。楽しく食べて、楽しく飲むことを大事にしていきたいです。

会社名の「タバッキ」はイタリア語で万屋(よろずや)、たばこ屋、キオスクの意味がありますが、その単数形が「tabacco(たばこ、シガレット)」です。さらに「bacco(バッコ)」というのはバッカスつまりワインの神様を指しているのでbaccoが隠れていることが素敵だなと僕が思ったからです。ここは店内禁煙ではありますが、大人の雰囲気を醸すシガレットのイタリア語と、バッカスが隠れているような雰囲気にもぴったりとイメージがはまり、店名を「ta.bacco」と名付けました。

ぼくらがいま目指しているのは、恵比寿のディープスポット。「恵比寿にこういうお店ってなかったよね」と言われる店にしたいですね。そして何より、変化を怖がらない店でありたいし、スタッフたちにもそのように伝えています。ですからお皿の出し方や品数も、今後変わっていく可能性は大いにあります。みなさんにお越しいただいたとき、「ta.bacco」はどんなお店になっているのか。ぜひ楽しみにしていてください。

企画/金沢大基(iD) 文/古俣千尋 写真/曽我美芽